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デジタル映画制作の悩みとは? [その他]

 先日、HDカメラを開発されている、ある会社の方とお会いしました。弊社のような会社で、映画制作のワークフローがどうなっているかを聞きたいとのこと。すでにいろいろなところで話をきかれているようで、大手の映画会社のスタジオなども見学されているそうです。

 弊社では、撮影をデジタルHDで行い、それをそのままMacに取込み、編集。必要に応じてスタジオでMAを行い、それが完パケになります。よく劇場さんから「素材は何ですか?」と聞かれるのですが、基本はデータ。それを先方の環境にあわせてテープなどに落とす…という作業になります。

 以前はよくフィルムで撮影していましたが、その時でもベーカムのコマ落としソリューション(当時ン百万円)を導入して、編集や効果をMacで行ってきましたので、現状のオールデジタルのシステムは不完全ながらその究極の形ともいえ、弊社にとってはごく自然ななりゆきです。まだまだ不満な点はあるものの、手元でできることがふえ自由度があがったということでは、監督にとってはユメのような時代なのだそうです。

 ただ、悩みは「出来上がった作品のデータをどうやって保存するか?」。完パケはまあ、撮影した解像度以上にはならないわけですから、テープに落として保存、という選択肢があります。しかし、1作品で2T(テラ:ギガの1000倍)にも及ぶ大量の素材をどうするか?となると、解決は困難です。データのままハードディスクに置いておくと、いざ使おうと思った時に動かない…といったことにもなりかねません(たまにハードディスクに電気を通したりすれば良いようなのですが、大量になるとこれもたいへんな手間であるうえ、ちょっとした振動やらなにやらで、データがとんでしまったら…という不吉な想像がつい頭をよぎります)。

 さらに、20年くらいたって、倉庫の奥からハードディスクを出してきても、インターフェイスが変わっていてデータを読み出すことができないことも考えられます(これがいちばんありそう?)。では、テープならそんなに安心なのか?というと、実はそうでもない…かもしれないのですが(笑)。その席でも話題になりましたが、たぶん「データだと心配」というのは、単に「気のせい」に属するものなのでしょう。心配しだしたらキリがない。そうは言っても、心配なものは心配だ。そんな堂々巡りのような話を、相手の方はイヤな顔もせず、熱心に聞いてくださいました。もちろん、撮影現場での課題や要望のような話もちゃんとしましたよ(笑)、念のため。お会いしてみて、開発者の方が、このような声を丹念に拾って製品に生かそうとされているのが印象的でした。

 私の立場からは、できたものをどうやって上映するか?が最大の課題。これは今回の話とは離れますが、ついでに少し書いておくと、HDで撮影した元素材は驚くほどきれいです。HDで撮影し劇場公開した「マニアの受難」の時は、使用したカメラを開発したP社のラボで、そのシステムに最適化された環境でテスト試写をさせてくださったのですが、黒の深みや空気感もよく出ていて、フィルム派の監督にとっても、かなり満足できる質感が得られたようでした。

 ところがいざ劇場で上映しようとすると、まずHDで上映すること自体が難しいところが多いのです。「マニアの受難」は、メイン会場のテアトル新宿では、ハリウッドで採用されているのと同じHD上映システムをレンタルして上映しましたが、その他の会場ではほとんどがDVcamでの上映となり、私としてはやや残念…でした。元が良ければ、いくらダウンコンバートしてもそれなりにきれいだというのはそのとおりとしても、やはり映像のクオリティ次第で、心が揺さぶられたりされなかったりということもあると思うのです。じゃあフィルムにあげれば?というのは当然の意見ではありますが、それではせっかくデジタルでやっている意味が半減してしまう気がします(とくに費用の面で…)。

 カメラや制作システムの側では、これからどんどんすごい製品が出てくるでしょう。解像度をはじめ、画のクオリティもどんどんあがってくると思います。そうだとしたら、それをどうやって見せるか?が、今後ますます製作側のジレンマになると思われます。一部の大型映画館などでは、高価な最新の機材を導入して差別化をはかっているようですが、技術革新と普及・標準化の追いかけっこ。このジレンマはいつまでも終わりそうにありません。

 ちなみに、現地在住の映画プロデューサの話によると、アメリカではHD作品はHDcamで上映ができるところが多いようです。うちも、リンカーンセンターで「4 HANDS」を上映した時は、HDcamを持って行きました。やはりきれいでしたよ! 

 ★「マニアの受難」オフィシャルサイト ※予告編映像も見られます
 ★「4 HANDS」オフィシャルサイト

text by Pon de Nyaice! 


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